以前、東証への上場基準として使われている流通株式時価総額(時価総額のうち市場に流通している株式のみの額)について書きました。
実はもうひとつ、東証が市場に流通している株式を算出するために使っている指標があるのを知っていますか?
それは浮動株比率と呼ばれるもので、東証株価指数(TOPIX)の計算に使われています。
現在検討されている新しい東証上場基準「流通時価総額」は、浮動株比率に近い定義が採用される可能性もありますね。
浮動株比率とは
浮動株比率(FFW)とは、東証の定義では「浮動株(市場で流通する可能性の高い株式)の分布状況に応じた比率」と書かれています。
簡単に言うと、発行済株式のうち、市場に「流通」している分のみの割合、つまり親会社保有分などをある基準で除いた割合のことです。
コンセプトとしては流通株式と同じなのですが、定義は少し異なります。
浮動株比率の算出方法と調べ方
それでは東証の資料を基に、浮動株比率の算出方法を確認してみましょう。
浮動株比率の定義は、東証の資料「浮動株比率の算定方法」に次のように書かれています。
固定株比率 = 固定株数 ÷ 指数用上場株式数
浮動株比率 = 1 - 固定株比率
まず、この定義に出てくる「指数用上場株式数」は、発行済株式数と同じと考えてほぼ問題ありません。これは、未上場の政府保有株式(NTTなど)を調整するために使われているもので、数銘柄しかないのですね。
次に「固定株数」は東証の資料に次のように書かれています。
以下に該当する持株は、原則として固定株として扱う。
大株主上位10位の保有株、自己株式等(相互保有株式(会社法308条1項により議決権の制限を受けている株式)を含む)、役員等の保有株、その他東証が適当とみなす事例(長期的又は固定的所有とみられる株式等)
ただし、「大株主上位10位の保有株」であっても、東証が浮動株とみなすことが適当であると判断した場合にはこの限りではない。
これで発行済株式数と固定株数が分かれば、浮動株指数を推定できそうです。
ただし、定義に「東証が〇〇とみなす」という部分があるので、公表資料からはあくまで浮動株比率の推定しかできない、という点にはご注意くださいね。
浮動株比率の算出例
今回も実際に「神姫バスの有価証券報告書」を例に、浮動株比率を推定してみます。
指数用上場株式数
有価証券報告書「第一部 第4-1-(1) 株式の総数等」に、事業年度末現在発行数「6,172,000株」と書かれています。
固定株数
役員所有株式数は、有価証券報告書「第一部 第4-4-(2) 役員の状況」に、 所有株式数の合計「56,000株」と書かれています。
自己株式数は、有価証券報告書「第一部 第4-1-(7) 議決権の状況」に、 所有株式数の合計「149,500株」と書かれています。
大株主上位10位の保有株は、有価証券報告書「第一部 第4-1-(6) 大株主の状況」に「1,598,000株」と書かれています。もし、役員および自己株式が上位10位に入っているときは、除外して重複カウントされないようにします。
これらを足し合わせると、固定株数は「1,803,500株」と推定できます。
浮動株比率
必要なデータがそろいましたので、上の式にあてはめてみます。
固定株比率 = 1,803,500 ÷ 6,172,000 ≒ 0.2922
浮動株比率 = 1 - 0.2922 = 0.7078
以上で浮動株比率は 0.7078 と推定できました。
さいごに
浮動株比率では流通していない株式として「大株主上位10位の保有株」と定義されていますが、流通株式では「上場株式数の10%以上を所有する者が所有する株式数」 と定義されています。この部分が大きく異なる点ですね。
さて、ここまで読んでいただいた方はお気づきかもしれませんが、浮動株比率を使って、市場に流通している株式の額は「時価総額×浮動株比率」と計算できます。
神姫バスの例で計算してみると、現在の時価総額は247億円なので 247 × 0.7078 = 174 億円となります。
新しい東証上場基準「流通時価総額」の定義が、浮動株比率の定義と同じになったとしても、神姫バスは基準を満たすことになりそうですね。